A=An angry day

仕事で使う原稿や書類など、そう多くない枚数ならコンビニのコピーを利用する。
自宅から10分以上歩かないとコンビニがないので、コピーをとりに行くのも一仕事だ。
学生の試験前の時期は、時間帯を考えないとひどいことになる。
そうでなくても、たまたま前の人が大量のコピーをとっていることもあり、それでも近くに他のコンビニが無いのだからじっと我慢して待たなくてはならない。
いちどなんか、本を一冊コピーした人がいた。自分だったらいったん中断して譲るよなあ、まさか一冊まるごとじゃないでしょう、もう終わるんじゃない?などと自問自答しながら待ちつづけ、結局その人は最後の1ページまでコピーをとり、当然でしょ、と言わんばかりの様子で去っていった。お待たせしました、のひとこともなく。
結果的に30分もならんでしまったわたしの方が非常識だといわんばかりに。
 そんなこともあって、コンビニでのコピーにはけっこう気を使う。
なるべくテキパキと時間をくわないようにするし、大量にとらねばならない時は深夜など人が少ない時間を選ぶようにしている。
 先日は5種類の原稿が5枚づつ必要だった。
半分近くとり終わった時に、中年の女性が1人コピー機の近くに立った。
いきなりその人はこう言った。
「あと何枚とるの?」
鼻にかかった甘ったるい声だった。
ぞんざいなものいいに、年下=目下の者という意識が見て取れたので、こちらも「2種類を5枚づつ、」と応じると
「10円入れるからとらせてくれない?」
そこのコピー機は作動がゆっくりのものだけど、10枚のコピーで順番を変わってあげる必要があるとはわたしは思わない。明らかに急いでいてその1枚を大至急持って電車に飛び乗らないと打ち合わせに遅れる、とうなら話は別だけれど。2種類を5枚づつ、というのはわたしにしてみれば、すぐ終わりますよと言う意味だった。相手も納得してくれるものと思っていた。
だから、順番を変わってと言われて、正直、え?と思った。
だって、せいぜい1、2分でしょう。こちらにしてみれば、途中で停止して、また縮小とか、設定をしなおして、、、。その旨を口にした次の瞬間、そのひとがとった行動はさらに意外だった。
「そんなに待っていらんない」と言い捨てて店を出ていったのだ。
甘く鼻にかかった声で、変わってくれなかった非常識と不親切を責めながら。
2種類を5枚づつ、がものすごく時間のかかることだと勘違いしたのだろうか。あるいはものすごく急いでいた?(1、2分が待てないということは数秒を争う状態ということになるが、どう見てもそんなふうには見えなかった)。どっちにしてもほんの数分待つことが出来ないならばコンビニを利用すべきではない。いつでも一秒も待たずに使える自分専用のコピー機ではないのだから。
 小さなことなのに実に不愉快だった。
たぶんあの女性は「この頃のひとってホントに非常識よね、わたしはたった一枚だから先にとらせてってたのんだのにまったく取り合わない。しかたがないから今日はコピーあきらめたわ」とかなんとか言っているにちがいない。あの品のよさそうな甘ったるい声で、常識の権化のような気になって。
 中年以降の女性をオバサンよばわりして見下すのはどうかと思う。
しかし、オバサンが世間で嫌われるのも理由がないわけではない。
オバサンはコミュニケーションを取ろうとしない。自分の要求を相手にのませるだけだ。相手の立場や状況には関心がない。自分と同じ立場、状況の人間としか付き合わないからだ。
 ああ、たかがコピーひとつで何でこんなに憤らなきゃならないんだろう。
だけど、ひととひととがうまくいかなくなる原因は案外こんな些細なことなんじゃないかと思うのだ。
わたしがこれほど不愉快だということは、相手の女性も同じランクの不愉快を感じたはずだが、どちらに非があろうとも、コミュニケーションを取る機会は失われている。というより始めからコミュニケーションが存在していない。個人が匿名の存在になった時に与えあうぞんざいで乱暴な態度が、わたしたちの日常の中の「なんかむかつく感じ」を形成する素になっているような気がする。すれ違いざまにちょっとぶつかっても何も言わないのが普通としてまかり通る国だから、フランスなんかに旅行に行ってちょっとしたことで「パードン」といわれたり、前の人がドアをおさえておいてくれるだけで感激してしまうのだ。
 最後にもうひとつ。
なぜ、オバサンは見知らぬ他人に「〜なの?」「〜してくれない?」という口をきくことができるんだろう。
わたしは服装もカジュアルだし、いわば自由業だからたしかに存在そのものがスクエアではない。
だからといって、子供でもあしらうような言い方はやめてもらいたい。それに、オバサンから見たらわたしなんぞ些細な子娘かもしれないが、年齢的には不惑をむかえるリッパな大人なのだ。
この手のことは時々あるが相手は決まって中年の女性だ。非常識なはずの学生とか、オジサンからそういうものいいをされることはあまりない。


(2002,1,30)


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