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恭さま


恭さま

こんにちは。うさぎです。はじめまして。
このところすこしずつ暖かくなって、毎朝新しい蕾が開いたり、草の緑が濃くなったり、世界全体が「春です、万歳」と、歌っているみたい。嬉しいな。
春になると、なぜかかいがいしい気分になって、家の中を整頓したくなります。
この前戸棚の中を整理したら、子供の頃親戚のおじさんにもらって大切にしていたビーズセットが出てきました。
小降りのお弁当箱ぐらいの箱の中が細かく仕切ってあって、キラキラ輝くガラスのビーズがいろんな色ごとに収めてあります。
こぼさないように気をつけながら眺めていると、こんな小さなビーズをつくったのは、きっと人間じゃない、ビーズ専門の小人に違いない、という気がしてきて、うっとりとした夢のような気分になったものです。
ところで、おじさんは女の子らしくビーズを繋げて指輪や首飾りを作ることを想定してプレゼントしてくれたのでしょうが、わたしが思いついた遊びは「ばくだんごっこ」でした。
「ビーズをひっくり返さないでね。もしひっくり返したら、絶体にもとどおリにしてもらいますからね。」
家の人たちにあらかじめこう言い渡しておいて、誰かの後ろや、通り道にビーズセットを置いておくの。誰かが気づかずにビーズに近くつのを待って、
「ばくだんだ、きけんです!」
と叫んで飛び出しては、びっくりしている大人を自分で仕掛けた地雷からすんでのところで救出してあげるのです。
ところが、ある時、床にビーズを仕掛けたまま他の遊びに熱中してしまい
「あきゃああ!」
という叫び声と何かがザラザラいう音で我に返りました。
ばくだんに引っ掛かった運の悪い人は、おばあちゃんでした。
床の上はいろんな色のビーズが混ざって、すっかり濁った色彩です。ビーズ専門の小人が作って箱につめたものを、ただの人間のおばあちゃんがもとどおりに選別するなんてどう考えても絶望的です。
もうあの夢のようにきれいな宝石箱は戻ってこないんだ。
そう自分に言い聞かせながらも、わたしは、
「もとどおりにしてよう!!」
と泣きわめきました。悪いのは自分だから、なおさら理不尽な言い掛かりをせずにいられなかったのです。
思う存分傍若無人に振る舞うと、ようやく気分がおさまり、ビーズはごちゃ混ぜのまま箱の中に集められ、おばあちゃんはそれをひとつぶひとつぶ選り分けはじめました。
そして、翌朝目を覚ますと、すっかりもとどおりに選別されたビーズが枕元でキラキラ輝いていたのです。
数えきれない程のビーズの量を思うと、胸が痛くなって、わたしは、ありがとうもごめんなさいも言えなかったのです。あのとき、わがままに泣きじゃくる子供を、おばあちゃんはどう思ったのかしら。
それ以来、「ばくだんごっこ」はいうまでもなく、だんだん箱を開けることもなくなって、ビーズは長い間戸棚の奥にしまい込まれたままでした。
「これにひとつぶひとつぶ糸を通して繋いでいったら、あのときのおばあちゃんの気持ちに少しはつけるかも知れない」
久しぶりに懐かしい宝石箱の輝きを眺めていて、ふとこう思いました。
何か作ってみようかな。出来上がったら、恭さんにもプレゼントしよう。

それでは、このへんで。
キシさんとうさこさんによろしく。
おてがみまってます。
                         3月28日       うさぎより


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