お久しぶりです。この前、手紙を出してから、もう1カ月くらいたったかしら。
お元気でしたか?わたしはとてもげんきです、てがみだとこう書きたくなるけど、本当は今日はちょっと元気がないの。
わたしの家の近くに大きな古いけやきの木があって、きれいな黄緑色の葉っぱをたくさんつけていて、窓からそれを眺めるたびに爽やかな幸せな気持ちになっていたんだけど、今朝、目が覚めたら、作業服の人たちがクレーン車で木に登って枝を切っていたのです。
先の方をすこし切るのかな、と思っていたら、お昼を食べた後もまだ終わらず、窓の外がどんどん淋しくなっていき、だんだん外を見るのが恐くなりました。
おやつが済んだ頃、ようやく音が止んだので思いきって外にでてみたら、ゆさゆさとそよいでいた枝が、まさか!と言うくらい大胆に切り落とされて、太い枝だけがニョキニョキとマジックで書いたみたいに空に突き出していました。
わたしの木じゃないから文句も言えないけど、ちょっぴり涙がでてしまいました。枝を落とすのは木にとって必要なことだと、聞いたことはあるけれど、気持ちよく風に揺れていた葉っぱがもう無いということがわたしには涙のでちゃうことだったの。
悲しくてしょんぼり椅子に座っていたら、こいぬがとなりにきて、
「そんなにがっかりしないでよ。きっと、切った所からものすごく元気な枝を生やすんじゃない?木ってやつはそういうものだと思うよ。それに、ニョキニョキして、真っ黒で、なんか勇ましい感じがするから、これはこれで、ぼくは、けっこう好きだな。」
といって、慰めてくれたけど、あんまり元気にはなれなかったわ。美容院に行って全然似合わない髪型になっちゃってがっくりしている人を励ますのに似ているな、なんて思っちゃった。「そのうち生えてくるよ」なんてね。
わたしがすごくブルーなかんじになってしまったので、こいぬは仕方なくひとりで元気よく遊ぶことにしたみたい。しっぽを追い掛けたり、スリッパを捕まえたり、ジャンプの練習をしたりね。こいぬはいつだってこんな感じなのです。たとえばピクニックの途中で雨が降ってきたら、『ずぶぬれ空中水泳大会』
を始めちゃうとか、今あることのなかで一番楽しいやり方を見つけられるの。
「考えたり、見つけるんじゃないんだよ。ぼく、ただ、そうしたくて、そうしちゃうんだ。」いつもこいぬはこう言います。
だけど、わたしはたとえばお天気が悪いだけでも気が滅入ってしまったりするの。今無いものや、無くなってしまったもののことで、悲しくなったり淋しくなったりしてしまうの。
だから、自分と正反対のこいぬに、こいぬはいつもきっぱりと元気で、素敵だなあ、といったら、「うさぎだってさ」ですって。
泣きたくなったら泣くのも、「そうしたくなったからそうする」ことなんだって。
泣き虫はいけないことだと思っていたけど、こいぬがそういうのならそう悪いことではないのかも知れません。
木のことも、少し時間が経って木自身が新しい格好に馴染む頃には「ニョキニョキしてかっこいい」と思えるかもしれないし。
ところで、この間、不思議なプレゼントが届いたの。送り主はドナちゃん。ドナちゃんのことはあまりよく知らないんだけど、、、、、何歳で何処に住んでいてどんな仕事をしているとかね、でも、ときどき訪ねてきて一緒にお茶をのんだりする、わたしの大好きな友だちです。
プレゼントにはこんなカードが添えてありました。
夏の始まりにぴったりのワンピースを見つけたので
うさぎにおくります。気に入るといいな。
確かにとても気に入ったけれど、わたしにはちいさすぎるわ。
だって手のひらと同じくらいの大きさなんだもの。
いったいこんな小さなワンピースがぴったりなのは誰なのかしら。
けやきの若葉が無くなってちょっと淋しすぎるから、カーテンレールにワンピースのハンガーを引っ掛けておきました。
椅子に座って眺めると、ちょうど枝の切り口のところに重なって、けやきの枝に小鳥がとまっているように見えます。
これは、着るためじゃない、こういうワンピースなのかしら。けっして小さすぎるというんじゃなくて、ね。
それとも、世の中のどこかに、こんなちいさなワンピースがぴったりの人がいるのかしら。
それでは、また。
5月17日 うさぎより