クミコさま
はじめまして。うさぎです。
今日はお天気がいいので、こいぬを洗ってあげることにしました。
こいぬは、茶色とグレーを混ぜてピンクを足したような色のちぢれっけの犬です。5カ月位前にうちに来て、一緒に住むようになりました。
こいぬには好きなことも嫌いなこともいっぱいあるんだけど、今日のような暖かい春の午後にお風呂に入ることが、こいぬにとってもっとも最悪な事態なのだそうです。お風呂に入るのはこれが初めてなのに、どうして最悪の事態だと分かるのかしら。
とにかく、たとえ最悪の事態だとしても、せめて5カ月に一度くらいはお風呂に入るべきだし、それに、今日のお天気といったら見のがすことが出来ない程ぽかぽかとしたお風呂日和なんです。
「さあ、こいぬ、だまされたとおもって、」という間にはやくもこいぬはトラック競技の選手みたいな勢いで逃げ出し、「このバニラの匂いのシャンプーで洗えば、」というと同時に椅子を飛び越し、「どんなに気持ちがいいことか」と言い終わるころには猛スピードで居間を3周半して、ソファーの下にもぐり込んでいました。
このエネルギーを何かに有効利用できたら、すごいよね。犬力発電とかね。
いくら呼んでも出てこないし、ソファーの下に手をのばしても届かないので、やれやれ大変なことになったわ、と思いながら、やっとの思いでソファーをずらすと、こいぬったら「ぼくいないよ」とばかりに、壁際のすみっこに頭を隠して丸くなっています。こうして、敢え無くこいぬはつかまって、シァンプーの泡の中で「ぅわあおぉん、あぅあをぉん、ぅをおおおん」と泣きつづけ、、、、10分後にはドライヤーも終わり、すっかり軽くなった毛並みをゆさゆさと気持ちよさそうに揺らしていました。ついさっきの大騒ぎはどこへやら、
「お風呂って案外気持ちいいね」ですって。
そして、すっかり勇ましい気持ちになると、
「こいぬっていうのは、なんでもやってみればへっちゃらになっちゃう、勇気あるゆうかんどうぶつなのさ。」と、得意げです。
「それからね、うさぎ、きみ、ソファーの下をたまには掃除したほうがいいよ。埃でね、ぼく、くしゃみがでちゃったよ。それに、何か見つけ物もあるんじゃない?」
改めてソファーの下を覗いてみたら、さっきこいぬが隠れていた埃の中に、指輪を見つけました。ピンクの宝石のついたお気に入りの指輪です。こんなところに落としていたなんて!
「よかったね、ぼくのおかげだね。」
ますます得意げなこいぬです。
それからふたりで、ベッドの下から戸棚の後ろまで家中くまなく掃除して(こいぬはスリッパかたっぽとゴムボールを、わたしはドナちゃんと一緒の写真と香水瓶を発見しました)、埃っぽくなったのでもういちどお風呂に入り(シャンプーのとき、こいぬはやっぱり「うおおぉん、ぅをぁあん」と泣きましたが、「今の声、ぼくちょっと歌をうたったんだよ」と説明しました)、こざっぱりしたふかふかの気分で、あつあつのスープとレタスサンドイッチ(こいぬはチョコクリームサンドイッチ)で、晩ごはんにしました。
お腹が一杯になってうっとりしたところで、こいぬがこういいました。
「ねえ、うさぎ、こいぬって案外掃除が好きなせいけつどうぶつなんだね。ぼく、これからも掃除をするから、きみ、安心してベッドの下なんかにチョコチップクッキーやチョコレートドーナッツのなくしものしていいよ。ちゃんと見つけてあげるからね。」
こいぬにかかったら掃除は宝探しで、きっと家中がクリスマスプレゼントみたいなものなのね。
ときどきは内緒のおやつをベッドの下になくしておいてあげましょう。
自分用にも、何かいいものをなくしておくことにしましょう。
素敵な見つけものがあるかも知れないと思うと、何でもない一日もなんだか楽しくなるでしょう。
クミコさんのベッドの下にもそんななくしものと見つけ物があるかもしれないですね。ちょっと覗いてみたらどうかしら。
それでは、また。
おてがみくださいね。
3月31日 うさぎより
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