かおるさま
こんにちは。うさぎです。はじめまして。
今日、わたしはすこし風邪気味です。きっときのう薄手のワンピースで出かけたのがいけなかったのです。夕方には冷え込むのがわかっていても、日射しの明るさが嬉しくてついつい薄着になってしまうのです。そういえば、こんなふうにして毎年この時期に風邪をひいているような気がします。
というわけで、今日は暖かくして家にいることにしました。
ひどい風邪は嫌だけど、すこし風邪ぎみっていうのは、じつは結構好きなんです。「風邪なんだもの」って言いながら、毛布にくるまってぼんやりしたり、はちみつたっぷりの甘いレモネードを飲んだり、牛乳プリンをつくって食べたりコホンコホン咳をしたり、やっぱり晩御飯はおかゆだわ、と独り言を言うのも鼻声だし、いろんなことがいつもと違うでしょう、それがなんだか嬉しくなるの。ほんとうはがんばればがんばれるんだけど、「かぜなんだもの」っていって大事をとって、とことんゆっくりしちゃうのです。一緒に住んでいるこいぬは、なんだ、散歩に行かないんだ、と不満そうだけど、だって今日は、「かぜなんだもの」。
わたしが今すわっている窓の外に、大きなけやきの木が見えます。
ねえ、かおるさん、大きな木を思い浮かべてみて。大きな木が初めて地上に芽を出した時のことを想像してみて。それわいったい何年ぐらい前のことでしょう。きっと、わたしが生まれるずっと前のことだったんだろうな。いつの間に柔らかな芽がこんなに丈夫な幹になったのかしら。ゆっくりと枝をのばして根を張って、雨の日も、晴れた日も、風の日も。
ああ、なんだかくらくらしてきます。
まだ、梢には冷たい風が吹いているけど、枝の先の小さく膨らんだ中にこれから一年の準備がすべてできているなんて、すごいなあ。
わたしもなにか春の準備をしたんだったかしら。気がつかないだけで、葉っぱの用意をしていたりして(まさか)。
そうだ、明日こいぬと一緒にけやきのところまで行ってみよう。
せっかくの風邪気分が、もりもり元気になってきちゃいました。もしかしたらこれがわたしの春の準備なのかも知れませんね。
それでは、また。
お手紙くださいね。待ってます。
3月26日 うさぎより
[2通目のうさぎのお手紙へ]