作品ノート
好きなことだけをしてきた。
好きなことは好き、それでいいと思っていた。
好きになればなるほど道は深く狭くなった。
美意識が研ぎ澄まされ微妙な差異を見分けるようになった。
宝石の鑑定士やすごいグルメのひとみたいに。
あるとき、頭を外に出して周りを眺めてみた。
そこには、わたしの好みではないたくさんの道があり、
狭くて深いその道を進むたくさんのひとがいた。
なんだ、好みは好みなんだ。
好みにすぎないんだ、と思った。
好きだと感じるのも、好きでないと感じるのも、結局は同じことなんだ。
嫌いという言葉で片付けていたものが誰か別の人にとっての「好き」であり得るということがわかった。
こころが輝いて道の中がすこし拡がったような気がした。
地球のどこかにゾウがいて、 食事をし、水をのみ、移動し、眠る。
わたしはそのゾウのことをよく知らない。
なにをどう喜んで、なにをどう悲しむのか。
まんがいち一緒に暮らすことになったら、たたみは擦り切れ、ベッドは潰れ、花壇は食い尽くされ、ウンチも巨大だし、とてもやっていけたもんじゃない。
だけどわたしはゾウというものに惹かれる。
得体が知れず、相容れない、その違いゆえに、尊重せずにいられない。
自分にわからないものが数しれず、一緒に生きている。
だから、世界はすばらしい。
わたしはこれからも好きなことだけをしていくだろう。
なぜなら、それ以外に進む道はないから。
世の中にはわたしとは違う、わたしにはわからない「好き」がたくさんある。そのことを大切に思いながら。
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