Cooking
とりわけ料理が好きというわけでもないけれど。毎日何かしら食べているので、何かしらつくっていることになる。
唐突ですが、料理とダンスは似ていると思う。料理という行為のなかで味わう感覚と、ダンスする身体の動きからうまれる感覚の目覚めぐあいには重なる部分がたくさんある。たとえば、おとうふにスッと包丁を入れるような質感で空間に一歩を踏み出したり、レタスをモサッと割るように両腕をひろげたり、かぼちゃを切るときのずっしりした密度で静止していたり、など。
いろんな食材の質感をじっくり体験するだけでもそこから身体の動きのもとになるイメージが立ち上がってくる。現実にそこにある「もの」だからこそ汲みとることのできる複雑で自分の想像をはるかに超えた質感が、すごくリアルで具体的なイメージになって身体の動きにつながっていく。
たとえば、たまご焼きをつくる場合。
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(1)まず卵を持ったときの重さと殻の質感。すこしザラザラして案外あたたかみがあって、こわれやすいけど意外と丈夫。
(これはダンスのプロローグの部分の空間と身体の状態を決める要素になる)
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(2)卵を割る時に手に伝わってくるコンコン、メチャッという感じ。ボウルのなかに落ちる卵のトロンとした質感。
(殻が割れて異質のものが出てくる=ものがたりのはじまりです) |
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(3)だしを加えて卵を混ぜる。手早くリズミカルに、8分の6拍子くらい。
(ここで動きが新鮮に変化する。サウンド的にもみずみずしい)
(4)油をひいた、らフライパンはちょっとけむりが立つくらい熱し、3分の1より少し多い量の卵を一気に流し込む。
(動きはここが最高潮。「じゅわっ」という音をきっかけに液体から固体へ動きの質感が変化していく)
(5)残りの卵を2回くらいにわけて流し込んではトントンとまいていき、ふっくらと焼きあげる。
(ふくよかな質感へたかまりながらラストシーンへ。静かだけど幸福感のある空間と音)
たまご焼きだと思うとヘンな感じかもしれないけれど、たまご焼きをつくる行程で体験する「質感」だけを抽象的にみつめてみて下さい。すごくドラマチックなしっかりしたテーマがあると思うのです。
ちなみに、おいしくつくるコツは、卵のまぜ具合(ぐちゃぐちゃ混ぜすぎてはだめ)と、卵を流し込む時のフライパンの温度とタイミング。適度なリズムとテンションが味を決めるのもやっぱりダンスと同じだなあ。
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